新幹線立ち往生


昔,私が乗った東海道新幹線が,浜松駅で立ち往生したことがあった.最近は頻繁にあるようだが,たしか,10年以上前のこと.名古屋からの帰りに,熱海-新横浜間の降雨量が,当時で60mm/時を越えたとのことで,運転見合わせになった.ちょうどその後方を走行していた私の電車は,浜松駅で運転見合わせとなった.なぜ,そんなことをよく覚えていたのかと言うと,浜松駅停車中,新幹線が斜めになって停止してしまい,当時の車内販売のワゴンが斜めに傾いた電車内で苦労しながら移動していた.異常な車内空間だった.

浜松駅は,新幹線がカーブしている.通常,高速でカーブを通過するときは,線路を斜めに傾ける.例えば,右の車輪と左の車輪の高さをそれぞれの線路の高さを変えることで,斜めにしている.高速走行時は,斜めになっているけれども遠心力がカーブの曲がっている外側に作用し,一方,斜めになっていることで発生する重力の斜め成分がカーブの曲がっている内側に作用し,釣り合って,余り違和感を感じない.しかし,新幹線が停止すると遠心力がなくなり,カーブ内側への重量成分が残り,内側に傾いて通行しにくくなる.

どのくらい傾いていたのかを考えてみる.こ の傾きのことを「カント」というらしい.そういえば,大学1 年生の時の教養科目のなにかで,習ったような気がする.

そもそも,カントが必要なのは,先述したように,コーナーを電車が走行すると き,遠心力と重力の合力が軌道面に対して垂直にかかるように するためだ.垂直に力がかからなければ,車輪が空転してしまう.

そこで,遠心力は,((電車の質量)X (速度の二乗))/ (回転半径)

重力は,(電車の質量)X (重力加速度)

カントの傾きは,(遠心力)/ (重力)のアークタンジェント を取れば出てくるだろう.素人計算だが,まあ,そんな に間違っていないだろう.

回転半径を東海道新幹線の限界設計値2500mとして,浜松駅通過時の速度を 250km/hとする.

MKS系に直して計算すると,カントが約11度と計算される (カントは,通常,角度ではなく高さで表現される)

ちょっと傾きが大きすぎる様な気がして,どこか,計算が間違っているかもしれないので,再考する.

鉄道工学の本を調べたら,ズバリ,カントの計算式が出てい た.

カントの高さ(mm)=(電車の平均時速の2乗)X (軌道の 幅(mm) / (127X曲率半径(mm)) これで計算すると,カントの高さが,282mmとなる.つま り,2本の線路の高さの差が内側と外側で約28cm違うという ことである.

ただ,良く読んでみると,最高速度を用いず,平均速度を用い るらしい.それから,浜松駅の曲率半径が2500mという限界値は ちよつと小さすぎるかもしれない. 例えば,5000mとするとカントは,半分の141mmとなる.

ちなみに282mmの傾きは,標準軌で約11度と私の素人計算 と一致・カントが,141mmならば,約5度となる.

こうなると,浜松駅の上り通過線の曲率半径が重要なキーとな る.地図から読んでみた.厳密には分からないが,2500 mぐらいの曲率はある.緩和曲線云々を無視して,2500と考え る.

そうすると,結果として,浜松駅で臨時停車した 新幹線の傾きは,約1〇度であったと結論が得られた.あんが い,傾いている.最初の計算値は大きすぎない.

左右方向に対して10度傾いた床面を前後方向に移動するのは,意外と大変な気がする.立ち往生は,傾いていなくても,回避したいものである.

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