日本の技術というと大きな範疇になるが、ここでは、一般的な管理作業や建築作業などに注目します。最近、解体工事現場で大きなクレーンが倒れたとか、大型資材が落下して痛ましい事故が発生しています。また、花火大会では、打ち上げ時に火災が発生したというニュースを立て続けに聞きました。昭和40年ごろは、大きな事故が沢山発生していたような気がしますが、事故のたびに原因が徹底的に分析され、作業手順の改正などで作業現場にフィードバックされていったと記憶しています。こうした作業時の問題を分析し、事故が再発しないようにするプロセスは、うまく作用していたように感じました。ただ、あまり安全を重視するために、安全率を非常に多くして、合理的でない部分もあるという人もいました。しかし、安全がすべてに優先されるというポリシーは、重要な視座であると思っていました。こうした事故発生→問題分析→法的整備・作業手順の見直しといったPDCAにより大型の作業事故はかなり減少したと実感していました。非定型の作業手順で多くの事故は起こるのですが、それにしても今までなら、経験豊富な職人的な勘を持った作業員が全体を眺めながら、安全を俯瞰しながら作業チームをリードして、難しい作業をやり遂げたような気がします。
しかし、この数年、「日本でもそんな事故が起こるのだ!」という事故が少しずつ増えてきたような気がします。実は、全体の安全を俯瞰して非定型な作業を提案できるいわゆる職人のような作業が少なくなってきているような気もします。実は、大企業では、こうしたプロセスを徹底的に工程の標準化を行い、多くの勘の優れた職人がいなくても、作業が進められるように工夫していると思います。ただ、こうした作業は、あまり効率的でない場合があります。直接部品Aを取り除けばよいのに、安全のために部品Bを部品Aのそばに増設し、万が一部品Aを取り除くときに破壊したとしても部品Bがそれを支えてくれるという考え方です。コストや工数の増加を考えると、この部品Bを増設するということを行わない、行おうとしにくいかもしれません。象徴的な表現ですが、なにか、今までの日本らしい良さが発揮できなくなってきているのかもしれません。
新幹線など日本の列車ダイヤが正確といわれているのは、正確に運用するために努力しているというよりは、上のようないろいろな過去からのフィードバックによる改善・改良の結果としてダイヤが正確に運用されているのだと思います。列車運行の時間的正確さは、目的であるよりもいろいろな技術の結果であることが重要だと思います。よく海外では、日本ほどダイヤが正確でなくても良いと言いますが、本質的な問題はそこではないのです。でも、最近、しばしば、新幹線が運休になることがあるように感じます。日本の技術やシステム管理の良さが、薄れてきているのではとちょっと心配しています。そうわ言っても、人員不足、コスト削減、効率化。考え直さなければならないのかもしれません。